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2016年2月8日月曜日

北朝鮮、金正恩の長期戦略  余命ブログ以外の分析


 最近の北朝鮮は、2015年5月、11月のSLBM発射実験(潜水艦発射型弾道ミサイル)、2016年1月の自称「水爆」実験、2016年2月の弾道ミサイル発射と軍事挑発が顕著になっています。
 挑発の対象は米国だとする解説が多いですが、真の対象国はどこなのでしょうか?
 また、挑発の目的は何なのでしょうか?

 金正恩・第一書記の長期戦略の分析、および、軍事的・経済的側面の分析から迫った興味深い記事がありましたので、そのまとめを紹介いたします。
 北朝鮮情勢を見る際の参考になればと思います。



引用元
ついに中国を標的にし始めた北朝鮮のチキンゲーム
nippon.com、2016.02.03記事、李 英和氏

著者: 李 英和 氏  LEE Young-hwa
関西大学経済学部教授(北朝鮮社会経済論専攻)。
1954年大阪府生まれ、在日朝鮮人三世。関西大学大学院博士課程修了(経済学専攻)。
関西大学経済学部助教授を経て現職。1991年4月~12月、北朝鮮の朝鮮社会科学院に留学。
93年にNGO「救え!北朝鮮の民衆/緊急行動ネットワーク」(RENK)を結成、現在、同代表を務める。著書に『暴走国家・北朝鮮の狙い』(PHP研究所、2009年)など多数。



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北朝鮮軍事情勢、弾道ミサイル射程図
北朝鮮、中国様の機嫌よりも体制の安定(2016)
中国軍事情勢、瀋陽軍区・北朝鮮連合vs北京
 ↓↓↓
◎北朝鮮、弾道ミサイル2発発射=ノドン、飛距離650キロ-日米韓首脳会談けん制か、時事ドットコム ※記事などの内容は2014年3月26日掲載時のものです
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目次

1.簡単まとめ

2.要約
2-1.序論
2-2.経緯
2-3.標的は中国
2-4.中国の悩み
2-5.チキンレースの出口は?





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

1.簡単まとめ

・示威行動の目的は何か、なぜ今か、そもそも誰に向けた威嚇なのか
…今回のミサイル発射準備については、核実験強行に対する国連安保理の制裁強化決議を控えていることから、対米の意味合いは確かにある
 (発射準備2016.1~、ミサイル発射2016.2.7)
…しかし、一連の行動全体を見た場合、主に中国を対象とした示威行動と見て間違いない
 (金正恩体制下では、地下核実験2013.2、SLBM発射実験2015.5、11、自称「水爆」実験2016.1)
…その上で、国際社会、特に米国に対し「中国離れ」をアピールするという持って回った構図
…「中国の覇権主義に反対である。場合によってはこの核は対中国の威嚇にもなる」という意味

・金正恩・第一書記の発言、オフレコの内輪話
…側近に「中国は100年の敵」と言ってはばからなかった
…最近でも、「中国相手でも臆することなく強気に出なければならない。中国がアメリカに同調し、制裁を加えるというなら、北京に核ミサイルを撃ち込むことも辞さない」という内容の話をした

北朝鮮弾道ミサイルの射程
◎北朝鮮、弾道ミサイル2発発射=ノドン、飛距離650キロ-日米韓首脳会談けん制か
時事ドットコム ※記事などの内容は2014年3月26日掲載時のものです

・北朝鮮・金正恩第一書記の、中長期的なテーマ
…課題は、言うまでもなく絶望的な状況にある経済の立て直し
…これまでも現在も、北朝鮮をあらゆる意味で支えているのは中国
…その中国にいろいろ求めても、これまではかばかしい結果が返ってこなかった
…金正恩第一書記は、中国の対北援助の基本方針が「生かさず殺さず」であると見切ったようだ
…そのため、他から援助を引き出そうとしているのであろう

・北朝鮮、金正恩・第一書記がとりうる手段は、これまで通り対外恐喝路線しかない
…北朝鮮がもっている唯一の対外交渉カードは、いうまでもなく核・ミサイル開発
…国際社会は、経済制裁解除と援助実施の条件として、必ずイランのように核開発の放棄を求めてくる
…しかし、核を手放せば、少なくとも現体制は外からの圧力で潰される

・中国の対北朝鮮政策は、ここにきて岐路に立つ
中国への核・ミサイル威嚇は、北朝鮮の「対米交渉カード」となってしまった
…中国側は、「狂犬」に出会って棍棒で叩きのめすべきか避けて通るべきか、思い悩んでいる
…中国内の現実としては、隣国が大混乱に陥るような強硬手段をとる余地がないほど、足下の経済問題が深刻
…中国は当面、慎重な態度をとり続けなければならないようだ

・金正恩・第一書記の行動は、彼なりの合理的な判断に基づいたもの
…たとえ暴走に見えたとしても…しかし、幸運にかけたギャンブルであることには違いない
…今回について言えば、五分五分の確率で幸運に浴するのではないか
…しかし今回、中国まで核恐喝の標的にしたことで、北朝鮮の現体制を取り巻く環境がさらに厳しいものになったことは確かである

・これからの展開
…もし中国の強力な経済制裁を受ければ、北朝鮮経済はよくもって半年、一年といったところだろう
…そのため、目先、北朝鮮の対外示威行動は激しさを増していくと思われる
…春節のころには、複数のミサイル発射、さらに第5次の核実験、前回、模擬試験レベルであったSLBM発射実験を今度こそ本当に潜水艦から行う、などの行動を、5月の労働党大会に向けて矢継ぎ早にとってくる公算が大きい
…そして、核の完全放棄ではなく「核実験の無期限凍結」という、核カードを決して手放さない形の妥協と引き換えに、中・長期的な経済援助を引き出そうとするだろう
…おそらく米中ではなく、韓国を念頭に置いた駆け引きになるだろう





2.要約

2-1.序論

・北朝鮮の対外挑発が最近、顕著
…2015年5月、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の発射実験
…信濃注:2015年12月にもSLBMの発射実験
…2016年1月6日、「水爆実験」とうたった地下核実験
…2016年1月28日、ミサイル実験準備が複数箇所で同時進行中であることが報道される
…早ければ2月上旬には実際に、しかも長・中・短距離の弾道ミサイルを乱れ打ちする可能性あり

・示威行動の目的は何か、なぜ今か、そもそも誰に向けた威嚇なのか
…さまざまな解説がなされている
…ほとんどが、これまで通りアメリカを対象にしたものだということになっている
…特に今回のミサイル発射準備(2016.1~2)については、核実験強行に対する国連安保理の制裁強化決議を控えていることから、その意味合いは確かにある

・一連の行動全体を見た場合、どう解釈すべきか。
…SLBM実験以降、従来とは質的にまったく別ものになった
…主に中国を対象とした示威行動と見て間違いない
…その上で、国際社会、特にアメリカに対し「中国離れ」をアピールするという持って回った構図
…「中国の覇権主義に反対である。場合によってはこの核は対中国の威嚇にもなる」という意味合い



2-2.経緯

金正恩第一書記は、ようやく中長期的な国自体のテーマに取り組むようになった
…2011年、父・金正日総書記の死
…金正恩・国防委員会第一委員長、朝鮮労働党第一書記が最高指導者の地位を継承
…父から後見としてつけられていた実力者、高官、側近らの粛清を続ける
…現在、ほぼ国内に対抗勢力がいない状況になる
…ここで彼は、ようやく中長期的な国自体のテーマに取り組むようになったと見ている

・課題は、言うまでもなく絶望的な状況にある経済の立て直し
…これまでも現在も、北朝鮮をあらゆる意味で支えているのは中国
…その中国にいろいろ求めても、これまではかばかしい結果が返ってこなかった
…金正恩第一書記は、中国の対北援助の基本方針が「生かさず殺さず」であると見切ったようだ
…そのため、他から援助を引き出そうとしているのであろう



2-3.標的は中国

金正恩・第一書記の発言、オフレコの内輪話
…側近に「中国は100年の敵」と言ってはばからなかった
…最近でも、「中国相手でも臆することなく強気に出なければならない。中国がアメリカに同調し、制裁を加えるというなら、北京に核ミサイルを撃ち込むことも辞さない」という内容の話をした
…当然、中国の耳に入ることは計算の上であろう

・北朝鮮、金正恩・第一書記がとりうる手段は、これまで通り対外恐喝路線しかない
…北朝鮮がもっている唯一の対外交渉カードは、いうまでもなく核・ミサイル開発
…国際社会は、経済制裁解除と援助実施の条件として、必ずイランのように核開発の放棄を求めてくる
…核を手放せば、少なくとも現体制は外からの圧力で潰される

・中国標的説の根拠
…これまで開発した通常核ですらミサイル搭載が不確かであるにも関わらず、それよりも重い弾頭を用意しようとしている
…北朝鮮の通常動力型潜水艦では行動範囲が限られているにも関わらず、SLBMを保持しようとしている
…これらが開発に成功したとして、その標的は近国しかありえない(アメリカ狙いは無理)
…これらの一連の開発は、アメリカにとってはほとんど影響がない
…これらの一連の開発は、中国にとっては直接的な脅威

・中国標的説の背景
…南シナ海問題で、国際社会、特にアメリカの中国に対する風当たりが強くなっていること
…これに同調する姿勢をとることで少しでも自らの立場に正当性を付加しようとしていること
中国は今、経済問題などの内部環境から見て、北朝鮮を潰しかねないような厳しい制裁を行うことができない、と見切っていること



信濃注:

(前略) (安倍)首相は「核兵器開発に技術的な成熟が見込まれる。今回は試験のため通常の水爆よりも爆発の規模を小さく押さえた可能性は否定できない。弾道ミサイル能力の増強とあわせて考えれば、わが国の安全に対する重大な脅威だ」とした(後略)
【北朝鮮核実験】安倍首相と中谷防衛相「水爆とは考えにくい」 
産経ニュース、更新



北朝鮮弾道ミサイルの射程
◎北朝鮮、弾道ミサイル2発発射=ノドン、飛距離650キロ-日米韓首脳会談けん制か
時事ドットコム ※記事などの内容は2014年3月26日掲載時のものです



北朝鮮のミサイルと発射方向
◎北朝鮮、弾道ミサイル2発発射=ノドン、飛距離650キロ-日米韓首脳会談けん制か
時事ドットコム ※記事などの内容は2014年3月26日掲載時のものです

(信濃注、以上)



2-4.中国の悩み

・中国の対北朝鮮政策は、ここにきて岐路に立つ
…中国側は、「狂犬」に出会って棍棒で叩きのめすべきか避けて通るべきか、思い悩んでいる
…中国は、これまで北朝鮮の核・ミサイル問題を「対米交渉カード」に利用してきた
…ところが今や「飼い犬に手を噛まれる」の格好
中国への核・ミサイル威嚇は、北朝鮮の「対米交渉カード」となってしまった

・中国内の対北朝鮮強硬論
…このまま北朝鮮を放置すれば、韓国、台湾、日本と核開発ドミノが起きる可能性がある
…アメリカ、日本が、対北朝鮮封鎖のために軍事力を朝鮮半島周辺に集中し始めており、このことも、中国の安全保障に悪影響を与える

・中国内の現実
…隣国が大混乱に陥るような強硬手段をとる余地がないほど、足下の経済問題が深刻
…当面、慎重な態度をとり続けなければならないようだ



2-5.チキンレースの出口は?

・これからの展開
…もし中国の強力な経済制裁を受ければ、北朝鮮経済はよくもって半年、一年といったところだろう
…そのため、目先、北朝鮮の対外示威行動は激しさを増していくと思われる
…春節のころには、複数のミサイル発射、さらに第5次の核実験、前回、模擬試験レベルであったSLBM発射実験を今度こそ本当に潜水艦から行う、などの行動を、5月の労働党大会に向けて矢継ぎ早にとってくる公算が大きい
…そして、核の完全放棄ではなく「核実験の無期限凍結」という、核カードを決して手放さない形の妥協と引き換えに、中・長期的な経済援助を引き出そうとするだろう
…おそらく米中ではなく、韓国を念頭に置いた駆け引きになるだろう

・金正恩・第一書記の行動は、彼なりの合理的な判断に基づいたもの
…たとえ暴走に見えたとしても
…しかし、幸運にかけたギャンブルであることには違いない
…今回について言えば、五分五分の確率で幸運に浴するのではないか
…しかし今回、中国まで核恐喝の標的にしたことで、北朝鮮の現体制を取り巻く環境がさらに厳しいものになったことは確かである




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改訂履歴
※2016.2.25、リンク削除、「詳しくはこちら」(冒頭) >>
【研究ノート】 北朝鮮、金正恩の長期戦略
※2016.2.25、リンク変更、変更前のリンクは以下
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【研究ノート】 北朝鮮軍事情勢、SLBM発射実験、2015
【研究ノート】 北朝鮮軍事情勢、自称「水爆」実験、2016.1.6
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